〔コラム〕小国土を利点に急成長したシンガポール

 シンガポールは国土も小さく人口も少ない小国ですが、1965年の独立以来リー・クアンユー氏が国づくりを進めてきて、今や1人当たりにGDPでは日本を抜き、世界でも有数な豊かな国になっています。

 その背景には、指導者が志高く、実行力があったことはもちろんですが、国土が小さいことがあったと思います。小さな国土であることを大きな利点とする発想で、産業や生活インフラを作り上げ、制度を整備してきました。国土が広く、人口の多い国ではなかなか徹底できないことを小さなシンガポールだからやってのけられたと思われることがいろいろとあります。

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 もうかなり前の事になるのですが、自分がシンガポールに滞在していた頃、こんな話を聞きました。

 「シンガポールの治安がいいのは、シンガポールが小さな島国で、警官が島の周辺に並ぶと国を囲い込めるから、犯罪者は決して逃げ出せないからだよ」

 これは冗談だと思います(笑)。

 しかし、その時代にシンガポールは100%プッシュホンでした。その頃の日本はまだ昔ながらの電話網が中心で、少しずつプッシュホンに変わってきている時代でした。そういう日本を尻目にシンガポールは全てをプッシュホンにしたのです。政府の強制力もすごいのですが、一気にやれてしまう規模の国であることがそれを可能にしたのだと思います。

 

 東南アジアの国々では、経済成長に伴い自動車が道路にあふれ、都市部の交通渋滞はとても激しいものになっています。インドネシアのジャカルタ、タイのバンコク、ベトナムのホーチミン。どこをとっても激しい交通渋滞です。

 国土面積の小さいシンガポールも成長の過程では同じ問題が懸念されていました。ところが、いろいろな施策を取り入れ、なんとか乗り切ってきています。

 その渋滞緩和のための施策のひとつが「ERP(Electronic Road Pricing System)」です。ある時間帯に街の中心部に車が乗り入れるときにはその地域の入場料が必要になります。

 以前は事前にチケットを購入してそのチケットをフロントガラスに提示していたのですが、今では日本のETCシステムのように各自動車に搭載した機器がその地域に設置された装置に反応して料金を自動回収するシステムが導入されています。

 シンガポールを走るすべての自動車がこのERPの端末を設置していれば、料金回収だけでなく、すべての自動車の所在や運行状況をいざというときには確認できます。そのデータが治安維持に役立つだけでなく、国内のトラフィックの分析にも使うことができます。

 このERPシステムは、単に自動車の道路への侵入を把握するだけでなく、どのレーンを走っているかによって料金を変えることもやっているようです。

 

 

 通勤時間帯の都市交通(MRT)のラッシュを軽減する取り組みも行われています。2013年に早朝のMRT乗車料金を無料にする実験を始めました。朝のMRT利用時間が集中しないようにするための施策です。これは効果があるようで、昨年2回目の期間延長が行われたようです。

 

 良いと思ったらすぐにやってみる。そして効果ありと思ったら全土に徹底する。このスピードの速さが50年間でシンガポールが世界有数の豊かな国になった秘訣のようです。

 

2016年1月6日

仁藤誠人

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