連載「最新インドネシアビジネスニュース」(23)

インドネシア飲食店開業・運営の徹底ノウハウ【その3】

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 インドネシアに飲食店を開業し、利益を出し続ける方法について徹底的に解説する。今回は第3弾。具体的に何を重視したら良いのか、すぐできることは何かが見えなくなっている。断片的ニュースや成功例だけでは、自分のお店に適応するかどうか、どうしても不安が残ってしまうのだ。

 最近のインドネシアには日系の飲食店が多数進出しており、現地人の外食に対する意識も変わりつつあるが、撤退や廃業するお店も多数存在する。その中で、現地に本当に受け入れられるのか、事業として存続できるのか、どんな間違いを犯しやすいのか、では具体的に何をすれば良いのか、について詳しくご紹介する。

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 インドネシアに飲食店を開業しようと思っているお店のオーナーや、事業担当の方にぜひ読んでいただき、あなたのお店を開業し、売上を上げ続けて、日本の食文化を現地に定着させてほしい。

目次

【その3】

24.想定の3倍はかかると知れ
25.投資回収のラインを知れ
26.生活レベルを現地に合わせろ
27.金勘定は自分でやれ
28.最新インドネシア飲食情報を集めろ
29.ライバルは中華料理店
30.お得意さんをクーポンで囲め
31.在住日本人を取り込め
32.女性と家族をターゲットにせよ
33.石の上にも3年
34.全てはテスト
35.永住する気で夢をみる。明日死ぬつもりで挑戦する。
まとめ

 

   

24.想定の3倍はかかると知れ

 インドネシアでは予想した開店資金の3倍はかかると予想し、準備しておくことだ。逆にギリギリの予算しかない場合には、諦める勇気も必要だ。

 店舗の賃貸、内装工事、厨房器具、備品の購入、食材の購入、搬入、従業員の募集・教育、通訳、アドバイザー、ビザ取得など、全く計算どおりにはいかないし、多くの時間が必要となる。

 これらのすべてに裏金、チップ、中間マージンなどが発生するからだ。すべてを正規どうりにやろうとしても、まったく話にならないぐらい時間と手間がかかる。さらに、持ち逃げ、約束を守らない、時間どうりにこないなどは日常茶飯事だということだ。

 もし、それらがなかったら「ラッキー」だと思わなければならない。そのくらいのレベルだということだ。その間に資金はどんどん減っていく。パートナーからは、いつ投資した金が回収できるのか、と急かされる。

 この混沌としたプレッシャーとストレスに耐えられるだけの熱意がないと、飲食店は開店できない。

 まず、計画段階の予算を3倍してみてほしい。それが、採算が合うかどうかを計算してほしい。時間が経てば経つほど、さらに経費はかかってくる。従業員の給与も毎年15%~45%上がるし、物価も実質10%上がっていくからだ。

 

   

25.投資回収のラインを知れ

 ビジネスをする場合には当たり前のことだが、損益分岐点と投資回収できる金額を頭の中に叩き込んでおくことだ。

 ここで注意をすべきなのは、最低賃金の上昇と物価の上昇の2つだ。

 最低賃金の発表が12月にあり、適応されるのが次の年の1月なので、従業員の給与改定の作業時間がほとんどない。従業員との話し合いで延長はできるが、従業員の中にはどうしても不安になってしまう場合があるし、ストライキに発展する可能性があるからだ。

 もう一つの物価上昇は、断食月の1ヶ月前あたりから始まる。それは、断食明けの休日であるレバランに帰省する人が多いので、そのお土産やレバランに合わせて服を新調することをするからだ。

 販売店側も、ここぞとばかりに値上げに踏み切る。さらに、断食月の_1ヶ月前にはTHR(テーハーエル)と呼ばれるラバランのボーナスがあり、いわゆるボーナス商戦が拍車をかけているからだ。

 物価上昇のタイミングはもう一つある。それは、ガソリンの値上げだ。ガソリンが上がると、すべての物価に影響するからだ。オジェックやタクシー、物流コストがあがるだけでなく、ゴルフのキャディーまでも値上げを要求する。

 投資回収ラインは、これらの3つのタイミング(最低賃金、レバラン、ガソリン)によって、急激に上がってくるので、時期も金額レベルも予測するのはかなり難しい。

 この2~3年の傾向からみても、すべてのコストが30%ぐらいの感覚で上がっている。飲食店の場合には、販売価格を毎年30%も上げることはできないことが多く、経営状況を圧迫するのは必須だ。

 まず、すべてのコストが毎年30%上がったとと想定して、投資回収ラインを設定してほしい。そして、それを上回る改善が必要だということを認識することだ。

 

   

26.生活レベルを現地に合わせろ

 現地人向けのレストランを開業するのであれば、自分自身の生活レベルを現地の生活レベルに合わせてほしい。ある程度安全であるが安いアパートに住み、公共交通機関を利用し、水シャワーを浴びるなど、現地の生活レベルをまず自分自身で体験してみることだ。

 こうすることによって、隣近所の住民と仲良くなれるし、現地の_味、雰囲気、趣向、悩み、痛み、摩擦などが見えてくるからだ。そして、現地人の実際の生活パターンを知り、何にお金をかけ、何にお金をかけないのがわかってくる。その経験が、お店の味やメニューを作り上げるヒントになるのだ。

 例えば、インドネシアにとってサンバルは、日本の味噌のような存在で、食事にはなくてはならないものだ。基本的にサンバルは家庭の味だ。だからスーパーなのでたくさんの種類の唐辛子が売られているし、サンバルがうまくできて主婦として一人前になると考えられている。

 地域によっても、作りかたや配合方法や揚げたものを使用するなど、本当に千差万別だ。これらは、高級高層アパートに住んで、プールのある豪華を暮らしをしていたのでは、肌で理解することはできない。だから、生活レベルを上げずに、その地域に根ざした味を追求し、そこからあなたのオリジナルを作りあげていくことだ。

   

27.金勘定は”自分だけ”でやる

 インドネシアで絶対にすべきことは、金勘定だ。毎日の売上現金や時間ごとのチェックも必ずやらなければならない。あなたは「敵に包囲されている」と思うことだ。

 よくあるのは、信じていた従業員が売上金をもって逃げたり、パートナーに騙されてすべてを乗っ取られたということだ。だから、パートナーとの合意では、お金の管理は自分でやることをはっきり提示することだ。それだけではなく、毎日のお金を流れを把握して、支払、入金もしっかりと帳簿をつけ、現金と突き合わせることだ。

 そして、できるだけ大量の現金を持ち歩かないように、銀行のATMなどでこまめに入金しておくことだ。その銀行も複数行に分けて保管しておく。ただし、現金の入金ができるATM機は少ないので近くの銀行も探しておくことだ。

 現金を入金する方法は以下。

https://youtu.be/0ZTYrlxBpu4

 数店舗を保有する場合もできるだけ、金勘定は自分で行い、どうしてもできない場合にもマニュアルを作成し、特定の人だけにやらせることだ。その特定された信頼できそうな人は、家族との交流が密になっており、その家族の両親も何回も会うぐらいの間柄にしておくことだ。

 まず、金勘定は自分でやると決めて、パートナーとの交渉や日々の金勘定を行う時間を確保しておくことが大事だ。

 

   

28.最新インドネシア飲食情報を集めろ

 日本語のサイトだけではなく、インドネシアの生の情報を集めることだ。以下を参考にしてほしい。

グルメサイト
レストラン開業
ジャカルタキニ
フード関係
料理学校:イアンペリアルクッキングスクール
料理学校:スコラ・クリヌール
料理学校:ジャカルタ・クリヌール・センター
さまざまな地方、各国の料理レシピ①
さまざまな地方、各国の料理レシピ②


・主な生鮮食品の輸出業者

広洋貿易株式会社
オーシャン貿易株式会社
株式会社トランスコンテナ
株式会社カンジロ(伊藤忠)

 

   

29.ライバルは中華料理店

 日系の飲食店のライバルは現地の中華料理店だといってもいい。

 インドネシアにはこれからさらに外食産業が増えてくると誰もが予想しているが、ある程度客単価が高いのは中華料理だ。もともと華僑である中華系インドネシア人は外食を好み、日曜の昼間は家族揃って飲茶を楽しむ習慣がある。日曜の昼に中華料理店はほぼ満員だ。

 本格的な中華料理店も数多くあるし、比較的安価な「ディン・タイ・フォン」も進出しており、イスラム系インドネシア人にも受け入れらている。
多くのメニューは油を使っており、ヘルシーとは言い難いが、現地人には非常に受け入れやすい味を作り上げている。中華料理の浸透によって、味覚の変化が起こっていることは確かだ。

 まず、調査段階では中華料理_をライバルだと思い、調査を念密にやっていくと、あなたのお店のコンセプト、味、量がみえてくるのだ。

 以下、代表的な中華料理店。

ティン・タイ・フォン
タ・ワン
ダックキング
クリスタル・ジェード
メイ・スター

   

30.お得意さんをクーポンで囲め

 クーポンはマーケティングでよく使われる方法だが、インドネシアではかなり有効だ。インドネシアの場合には一人でレストランで食事をすることはほとんどない。友人や家族と一緒に3人以上訪れることがほとんどだからだ。

 「何か食べようか」と言ったときに、誰かがクーポン券を持っていれば、かなりの確率で来店してくれる。いわゆる口コミで、友達が友達を連れて来てくれるのだ。また、プロモーションを頻繁に行っていくことだ。インドネシアでは_「お得感」が大事だからだ。

 スマホなどのSNSもかなり普及しているが、飲食店のPRにはまだ時間がかかりそうだ。また、名刺などを頂き、プロモーション案内や割引券を入れたダイレクトメールを送ることも有効だ。

 

   

31.在住日本人を取り込め

 在住日本の多くは3年以上住んでいるので、新しい飲食店の開店を待ち望んでいる。ローカル向けだとしても、まずは在住日本人に来てもらうことだ。それを見ている現地人は「日本人が入っているのだから美味しいだろう」と予想する場合が多い。

 ただ、これもやりすぎると、日本人だけ=値段が高い と思われてしまう。この価格設定は非常に微妙なさじ加減が必要だ。

 日本人を取り込むには、まず日本語のメディアをつかって宣伝することだ。以下などが挙げられる。

ジャカルタ新聞
さらさ
南極星
ライフネシア
ジェイピープル

 

   

32.女性と家族をターゲットにせよ

 外食産業を支えているのは女性と家族との来店だと言ってもいい。女性の年齢層は広く、20歳台から40歳台がメインとなる。彼女たちはおしゃべりが好きで、食事やお茶をを飲みながらおしゃべりすることが習慣になっているからだ。そして、家族の場合に選択権があるのが、妻や娘たちだ。

 最近ではドーナツ屋さんや、アイスクリーム屋さんでも長い時間座って話している光景を見かける。だから、女性客に受け入れられる内装や雰囲気をつくっていくことだ。基本的には明るい店づくりをしていところが多い。

 家族向けには子供用のメニューを用意する。いわゆるお子様ランチは、残しても持っていけるような容器にしたり、ゲーム感覚の要素を入れておくことだ。例えば、吉野家では、お子様ランチにコインが付いてきて、店内の「ガチャガチャ」でおまけがもらえるシステムにしている。

 メニューは甘い飲み物やスウィーツが圧倒的な支持をされている。レストランであっても、この傾向な変わらない。甘いアボガドジュースなどは定番の一つだ。

 つまり、女性と家族をメインターゲットにした飲食店を開くこと。彼女たちが牽引力となり、口コミを増やしてくれるのだ。

 

   

33.石の上にも3年

 インドネシアに開店する場合、最初のプロモーションで行列ができたとしても安心してはいけない。特にジャカルタには毎日のように新しいお店が開店しているし、インドネシア人は「新しもの好き」が多いからだ。

 だから、新しいコンセプトや店内の改装などを比較的短い時間で繰り返していかなくてはならない。さらに、賃貸の場合に、家賃を来月から2倍に上げる、といった要求もしてくる。日本で作成した計画表どうりには全くいかないことも受け入れなければならない。

 そんな混沌としたインドネシアを理解するにはやはり、3年以上の経験が必要だ。毎日のように驚き、毎日のように問題が発生する。

 まさしく、「石の上にも3年」という言葉で、それに耐えうるだけの強い精神力が必要なのだ。

 

   

34.全てはテスト

 インドネシアで飲食店を開店し、軌道に乗せるためには、「すべてテスト」というマインドを持って欲しい。

 できるだけリスクを少なく、小さくテストを繰り返すしかない。メニューも、プロモーションも、コンセプトも、これで絶対に上手くいくという方法は存在はしない。吉野家でさえ、一度インドネシアに出店したが、数年で撤退している。今回は再挑戦なのだ。

 ただ一つ確実に言えることは、外食に支払う金額が増えていることだ。その嗜好は、お_腹を満たすだけの食事から、より安全で、より美味く、より雰囲気が良い食事に変化している。

 そういった彼らが、具体的にどういった食事を望んでいるのか、どういったコンセプトが受け入れられるは、テストするしかない。

 そのテストは、食材、立地条件、パートナー選び、従業員教育などにも及ぶことを受け入れることだ。
 「すべてはテスト」という言葉を覚えておいて欲しい。

 

   

35.永住する気で夢をみる。明日死ぬつもりで挑戦する。


 インドネシアで飲食店を開店することは、もうインドネシアに骨を埋める覚悟が必要だ。2,3年でなんとかなるものではないが、骨を埋めるつもりで夢を見て欲しい。日本の食文化をインドネシアに伝え、現地に根を張ながら人材を育て、事業を大きくしてほしい。

 日本という国や法律に守られ、常識を良しとし、空気を読むといった日本的な感覚は全く通用しない世界なのだ。まさに、ジャングルに一人で入っていく感覚であり、動物的なカンが必要な必要なのだ。

 だから、面白い。

 そう感じられる人にはインドネシアは素晴らしいフィールドになるだろう。だから、永住する気持ちで夢を見てほしいし、明日死ぬつもりで挑戦してほしい。

 

   

まとめ

 あなたにはインドネシアという未開地のフィールドで挑戦してほしい。飲食店を開店することは、どんなに詳しく調査をしたり、計画を作成してもそのとおりには全くいかないのだ。

 今回お伝えしたノウハウは「これをやれば必ず成功する」ということにはならない。しかし、かなりの確率で成功に近づくことはできると信じている。

 ぜひ、このノウハウを活用して、飲食店を開店させて、日本の素晴らしい食文化をインドネシアを広めて、根付かせて欲しいと願っている。

執筆:島田 稔(しまだ・みのる)
大手電機メーカーの技術者としてインドネシア在住9年。その後インドネシアで独立し
現地法人を立ち上げる。2冊商業出版し、現地企業や宗教家などと太いパイプを持つ。
現在はセミナーや執筆、翻訳、進出企業支援を行なう。
ビジネスインドネシア(http://bizidnesia.com/)にて情報を発信している。

お問い合わせはメールでお願いします。
langkah.pasti3@gmail.com

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