ミャンマー政権交代 (5)新大統領選出

前話>(*次話の公開時期は未定)

○テイン・セイン大統領

 ミャンマーの大統領の任期は5年で2期までとなっている。テイン・セイン大統領の就任は2011年3月30日で今年3月末に任期が終了する。所属する前政権与党の連邦団結発展党(USDP)が議会の主導権を握っているのであれば、もう1期務めることも許されているが、昨年11月の総選挙でUSDPが大敗してしまった以上その可能性はない。

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 テイン・セイン大統領は軍人出身でありながら、就任以来軍政からの離脱を進めてきた。国内の経済成長や少数民族武装勢力との停戦協議、そして外交においても長い間眠っていたミャンマーという国をもう一度目覚めさせた立役者であり、国民からも一定の評価を受けてきている。

 しかしながら、真の民主化政権を求めた国民は多く、今年3月末を持って大統領の任期を終了する。

 昨年11月の選挙後、スー・チー氏とも何度か会談しており、スー・チー氏率いる国民民主連盟(NLD)による新政権への円滑な移行についての協力も表明している。

○大統領資格に関する憲法改正

 ミャンマーの現行憲法(2008年制定)では、「親・子・配偶者・子の配偶者が外国籍の場合は正副大統領にはなれない」との規定(59条f)があり、英国人の夫(既に他界)との間で生まれた2人の息子はいずれも英国籍のスー・チー氏に大統領資格はない。

 2013年12月末に政権与党のUSDPが憲法改正案を国会の特別委員会に提出し、翌2014年から議論が本格化した。その後議論が進められ2015年2月10日、テイン・セイン大統領が現行憲法の改正に必要な国民投票の手続きを定めた法案に署名し法律が成立。連邦議会議員の75%を超える賛成を得た上で、国民投票で過半数の支持があれば憲法の改正が可能となった。しかしながら、議席の4分の1が軍人議席として割り当てられている現状では、国軍の協力なしに75%を超える賛成を得ることはできない。 

 2015年6月10日、USDPは憲法改正案を提出したが、外国籍の親族にいる者に大統領資格がないという部分についての変更は提出案にはなかった。そして2015年6月25日、提出された憲法改正案は国会で否決された。

○大統領になれないスー・チー氏

 昨年11月の選挙前に憲法改正議論に終止符がうたれ、たとえ国民民主連盟(NLD)が選挙で過半数の議席を獲得してもその党首であるアウン・サン・スー・チー氏が大統領にはなれないことが決まった。

 一時はNLDが2015年選挙もボイコットするのではないかという憶測も流れたが、スー・チー氏はすぐにそれを否定。11月8日の選挙は行われ、結果はNLDの大勝。過半数の議席数を獲得し、次期大統領の指名権を得た。

 次期政権の運営にあたり、選挙後スー・チー氏は投票日直前の11月5日の記者会見で「我々(NLD)が勝利すれば、私(党首)は大統領よりも上に立つことになる」と発言しており、政権与党党首として国政の指揮を執る可能性を示唆していた。その発言に関する批判の声が国内外から漏れ始めた。

 大統領選出の準備が粛々と進められる中、スー・チー氏を政府のトップにしたいと考える人たちはいろいろな方策を考えている。大統領の就任が不可能なら、大統領を象徴的な立場と位置付け、2011年に廃止された首相のポストを復活させ首相に就任して政権運営するという案がささやかれたり、現行憲法の大統領就任資格に関する部分の「一部執行停止」の可能性の模索が行われているなどという話も聞かれる。(※1947年制定の初代憲法以降、大統領に加えて首相が存在していたが、2011年2月4日にテイン・セインが大統領に選出された際に首相ポストは廃止されていた)

○大統領選出

 年が明けて2016年2月1日、新しく選ばれた議員による連邦議会が開会となった。最大の議題は次期大統領の選出である。

 大統領選出の手順は、まず上院、下院、軍人枠でそれぞれ1人の副大統領候補を決める。そしてこの3人の中から、上下両院の全議員の投票で大統領を選出する。落選した2人は副大統領となる。

 過半数の議席数をもつNLDは、単独で大統領選出が可能であり、NLDの提出する副大統領候補が自動的に大統領になるため、その人選が注目されている。

 現在、大統領候補としては、スー・チー氏から信頼を受けているテイン・ウー(Tin Oo)氏(NLD最高顧問)、ティン・ミョー・ウィン(Dr. Tin Myo Win)氏(スー・チー氏の主治医)などの名前が挙がっているが、場合によっては、前政権与党(USDP)の議員として下院議長を務め、2015年8月に半ば軟禁状態によりUSDPの党首を解任となった、トゥラ・シュエ・マン(Thura Shwe Mann)が選挙以前からスー・チー氏に歩み寄っており、大統領に就任する可能性もあり得る。

 ちなみにトゥラ・シュエ・マンは昨年の選挙では落選しているが、大統領は議員以外でも就任が可能。

〔参考〕

前話>(*次話の公開時期は未定)

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〔Clisien ASEAN News Clips 編集部〕 


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