(30)アチェ地方のイスラム信者の祝い事 「ムガン」
(Lily Fatma)
イスラム信者の人々は、断食が明けた後の祝日は全体で統一したお祝いのし方をしますが、こちらスマトラの最北部のアチェ地方ではまたちょっと違っています。
一般にはハリ・ラヤ(約一ヶ月の断食・ラマダーンが終わってからの祝日)に家族全員でモスクの礼拝に行ったり、親族、ムスリム同士の挨拶訪問がありますが、アチェの人たちはムガンといって断食明け一週間前にもうすでに家族全員忙しく立ち回ります。特に女性たちが台所でいろいろなご馳走を作ります。
ルマン(「インドネシアの生活風景(21)」で紹介したもち米の食べ物)とタペ(やはりもち米を醗酵して作られたお菓子です)。この二つは切っても切れない関係の食べ物です。ルマンにタペを付けて食べるこの食べ物は甘酸っぱくて一度食べたら、忘れられない味になるそうです。
タペはバナナの葉に包んで蒸すので香りが良いです。
そしてこのムガンの祝日の主になるのはやはりお肉料理です。牛肉をこちらのカレー風に料理したものを白いご飯にかけ、家族全員で食べることは本当に楽しいですね。出稼ぎに行ったり、他の町に勉学にいったりした家族もこの日だけにはみな戻ってきます。こちらの人たちにとって、お肉は年に何回しか口に出来ない食べ物ですから、いっそうですね。
もう一つ重要なことがあります。それはムガンの日の前にはみなそろって新しい服を買いに出かけます。ハリ・ラヤに新しい服、特にムスリム用の礼拝服や親族の家に挨拶に出向くときに新しい服を着ていくのは心が晴れ晴れするからということです。新しい気持ちで新しい一歩を歩むというものです。こちらでは毎回新しい服を買っている余裕がない人が多いのです。特に若い女性や子どもたちにとって新しい服や靴を所有することは本当にうれしいことです。
このムガンはアチェ地方では年に三回行われます。断食が始まる前、ハリ・ラヤの一週間前、そして犠牲祭の時です。
著:Lily Fatma (リリー・ファッマ)
逗子生まれ。父親はインドネシアの北スマトラ出身、母親は日本人で横浜生まれ。小学校と中学校は日本の教育を受け、その間も外交官の父についてインドネシアと日本を往復。高校在学中に在日インドネシア大使館を退職した父について帰国。現在はメダンで高校生、大学生、一般の人に日本語を、そして日本人にはインドネシア語を教えている。