前回のコラムで看護、介護福祉士候補者のコラムを書きましたが、2月24日、外務省はその滞在期間を1年延長し、看護師候補者は3年間、介護師候補者は最大4年間滞在を認めると発表しました。
賛否両論はあるにしても、私個人の考えでは大差ないと思っている。
それは、本質が変わっていないから。
本質とは、日本は「高度な人材だけ」の就労を認めているからです。
世界中がこれほどグローバルになっているにもかかわらず、「日本が流暢に話すことができる」プラス「技能も持ち合わせている」人材だけが日本で働くことができるのです。
そう言われると多分あなたはちょっと不思議に思うかもしれない。
それは、コンビニや外食チェーン店で働く中国人やフィリピン人らを多数見かけるからです。
「彼らは高度な人材なのだろうか?」と感じていますよね。
コンビニや外食チェーンで働くことが、技能を持ちあわせていないということではありませんし、私が感じるのは非常に素晴らしい仕事だと思っています。
ただ、証券業界やITシステム開発や大企業の運営に携わっている経営者層と比較してしまうと、「ちょっと・・・」と感じてしまう。
実は彼らはたった2つの方法で日本で働いているのです。
一つは留学生、二つ目は技能実習生として日本で働いています。
留学生のアルバイトは理解できると思います。
技能実習生と聞いてすぐ理解できる人はそれほど多くはないのではないでしょうか。
技能実習生は、公益財団法人 国際研修協力機構(JITOCO)が主体として推進し、指導、助言、援助などを行っています。
基本的な趣旨としては、発展途上国の人材育成のために、日本で一定期間技能を習得し、母国に帰ってからその技術を生かしてもらいたいという、国際貢献の一部なのです。
最大で3年間、日本で働きながら技能を習得してもらうことになります。
しかし、今までに様々問題が発生し、一般的には悪いイメージが強くなっているのも事実です。
その問題とは、賃金の未払いや過酷な労働環境、長時間残業、粗悪な住居の提供、実習_生自身の逃亡などが挙げられます。
受け入れる日本側も、本来の人材育成による国際貢献という趣旨に反して、「低賃金の労働力」として捉えていることもまた、事実です。
インドネシアなどの発展途上国の人からすれば、日本の最低賃金であっても現地の数倍の給料をもらえ、憧れの日本に行けるとなると、この制度は非常に魅力的に見えます。
そして、いわゆる3K(キツイ、キタナイ、キケン)職場で働く日本人の確保が難しい職場では、実習生は今や必要不可欠になっています。
「この制度自体がおかしい、廃止しろ」という人もいますが、私の意見としては、そうとも言い切れない。
それは、アジアの発展途上国に進出する際に非常に役に立つ制度だからです。
インドネシアなどのアジアに進出しようとした時に、まず最初はその商品がうれるかどうかです。
そして次に頭に浮かぶのは、
「現地の人にどうやって教えるか?」
「現地の人でも果たしてできるのか?」
ということです。
そのテストとして、技能実習生制度は非常に有効なのです。
進出を希望する国からの研修生を受け入れ、自分の職場で教え、習得できたかをテストする。
ほとんどリスクがないし、一時的な労働力を担える。
現地の本音を聞けるというリサーチもでき、少しは現地語も理解できる。
さらに、私たちが「現地で教えるという技術」を身につけられる。
低賃金の労働力ではなく、アジア進出の足がかりだと思えばこれほど有効な制度はない。
一方、実習生は日本で技能を学んで帰国し、その技能を生かした職業に就き、その国の技術力の向上を果たしているのか? といえば、そうではない。
例えば、日本で旋盤工として3年間現場で研修をし、帰国しても同じような機械加工会社に勤めることは、ほぼありえない。
もし、それができた人は宝くじに当たったぐらいにラッキーです。
しかし、彼らが習得できたものが2つある。
一つは「日本で働き、日本式の働き方」を理解できたこと。
もう一つは「日本_語」がある程度話せることだ。
インドネシアで、ある研修生と話したことがある。
彼は、部品を加工する小さな工場で、旋盤の仕事をしていたという。
その彼が、日本の会社に出勤した時に驚いたのは、「社長が工場内の掃除をしている」ということだ。
インドネシアの常識では、掃除は中学校しか卒業していないいわゆる低学歴の人の仕事だと思っていたからです。
日本の常識は、世界の非常識と言われる所以です。
彼はさらに、「仕事はきつかったけど、食事に連れて行ってもらったり、旅行にも連れて行ってもらった。本当に嬉しかった」と。
仕事の仲間とともに、家族のように接してくれたことが本当に嬉しいのです。
そして、社会人としての常識、つまり仕事の時間は守る、挨拶をしっかりする、健康のために体操をする、問題が発生したら上司に報告する、分からないことがあったら相談する、
など、基本的な事柄が3年間で習得できる。
さらに、何か失敗した時には、「自分の成長のために、あの上司は叱ってくれている」という感覚が養われる。これは非常に大事だ。
インドネシアの場合、その人が失敗して叱られた場合であっても、それを見ている周りの人は、「あの上司は怒りっぽい人だ」という評価にしかならない。
「怒られている彼はかわいそう、怒っている上司は人間としてダメな人」
という見方なのです。
何れにしても、日本で働いた経験は彼らにとっては、一生忘れられない思い出になるし、これから仕事をしていく上でも貴重な体験になっている。
そういう意味では、国際貢献にマッチしていると言えるだろう。
いままで私はインドネシアにおいて、多くの実習生たちと関わってきた。
その中で、帰国した実習生は日本で働き、現地で働いていては絶対にありえないお金を手にして帰国し、本当に豊かになったのだろうか?という疑問があった。
その質問を実習生に投げかけた。
結果はどうだったかというと200万円から300万円というお金を3年間で得ていたにもかかわらず、質問した全員が帰国後1年以内にほとんどそのお金を使いはたしているということです。
現地の賃金と比較したら、4~5年分の年収と同じ金額が、たった1年以内に使い果たしてしまっている。
3年間、異国の地で、日本語もそれほど流暢ではなく、辛く厳しい仕事をしながら、限界まで節約して貯めたお金が、なぜいとも簡単に無くなってしまうのだろうか?
実習生を指導している企業の方も、3年間一生懸命に働いてくれたので彼らには感謝しているし、豊かになってもらいたいという親心はだれでも持っている。
しかし、帰国した途端に破滅の道を歩んでしまうのです。
それには、インドネシア特有の文化が存在していることと
お金について学んでいないということです。
インドネシア特有の文化、それは「寄付・貢献の心」です。
次回に続く・・・
出典:公益社団法人 国際研修協力機構ホームページより
(http://www.jitco.or.jp)
前回記事: (5)インドネシアからの労働者受け入れ
執筆:島田 稔(しまだ・みのる)
大手電機メーカーの技術者としてインドネシア在住9年。その後インドネシアで独立し現地法人を立ち上げる。2冊商業出版し、現地企業や宗教家などと太いパイプを持つ。現在はセミナーや執筆、翻訳、進出企業支援を行なう。お問い合わせはメールでお願いします。
langkah.pasti3@gmail.com