連載「最新インドネシアビジネスニュース」(8)幅60cmのつり橋を通う小学生

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3月17日インドネシア大手コンパス・ドットコム(kompas.com)によると中部ジャワの水路として使われているつり橋(幅60cm、厚さ3cm)の板の上を50メートル以上も歩いて毎日通っている小学生がいるとニュースを伝えた。

そのつり橋は約20メートルもの深い谷の上に架けられており、オランダ統治時代の1920年代に作られているという。もちろん、あちこちにサビがみられ、関係する村や住民たちによって補修が行なわれている。しかし、注意の看板はない。

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村としては、「この橋は水路であり、板は水路チェックのために置かれているだけだ。
県に対して新しい橋の建設を提案している」と述べている。

あなたはこのニュースを聞いてどう感じるだろうか?

私がすぐ思いついたのは、インドネシアの新幹線の導入を延期した話です。
ジョコウィ大統領に変わってから、政策の一部が変更されたり、延期になっていることが多く見受けられます。

日本側としては「新幹線輸出」に大きな期待をしていたので、ショックは大きかったと思います。しかし、”庶民派”のジョコウィ大統領からすれば、新幹線よりはこのような生活基盤としての公共投資を優先するのがしごく当たり前の考えなのです。

この話はジャワ島の中部の話なので、多くの島をかかえるインドネシアにおいては、ジャカルタから離れた島においては、さらにひどい状況になっているのは、あなたも簡単に想像できると思います。

インドネシアにおいて、教育に関しては今まで無頓着であったと言わざるを得ない。
そこには、やはり貧困と宗教が絡んでいます。

インドネシアの義務教育は、日本と同じ小学校6年間と中学校3年間です。小学校は赤色で中学校は青色、高校は灰色の制服なので、すぐに見分けることができます。
金曜日はバティック模様の制服を着ることになっています。

ただ、これが貧困層においては非常に大きな負担となっています。子供を学校に行かせるために親は、親戚や友人から借金して、家計に大きな影響を与えているし、子供たちも学校を卒業したら、妹や弟の学費を稼ぐために働く人も多い。

私は学校の教科書を元に、会社内で試験問題を作ったことがあるが、その内容については日本で教えている内容とほぼ変わらないと感じた。ただ、そこには2つの問題がある。

一つは教科書が統一されていないということです。

教科書は支給ではなく、個人で購入することになっているのだが、年下の弟や妹たちは「お下がり」を使う事になる。教科書は何年かに一度改定されるが、教室内では様々な教科書をみているので、教える内容が統一できないという問題がある。

その教科書も、厳密には国の機関において確認がされていない。

10年ほど前に、ある教科書で日本を紹介する文があり、「雅(Miyabi)」という表現と写真が掲載され、配布された。ところが、その写真は日本のAV女優の「小澤マリア」だったということが判明し、回収された。そのニュースは大きく広がり、今でもインドネシアで「Miyabi」と言ったら、「小澤マリア」の顔が浮かぶようになってしまっている。

つまり、教科書検定は機能していないことになる。

二つ目の問題は、学校の教師の身分が低く、給料が安いことにある。
だから、学校の先生になりたいと思う子供たちは少ないし、教えるという仕事に対してパッションが持てないというのが現状です。だから、教師の質という面から見ると非常に低いと言わざるを得ない。

大学においては、ある程度限られた、お金がある人だけが進学できることになっています。入学試験もあるが、それよりもお金があるかどうかのほうが、大学側としても重要視しているのです。

「インドネシアの東大」と言われるインドネシア大学でさえも、試験に合格し入学する際にさまざまな費用を大学に支払わなければならず、大学進学を諦めた人もいる。さらに入学してからも、学費が払えずやむなく退学せざるをえない学生も多く存在する。

さらに、就職する際にも「お金」が関わってくる。少しでも関係がある国の行政機関や銀行、会社にも、お金を積むと入れるというので、借金をしてまで就職しようとする人がまだまだたくさんいる。

ところが、最近になってようやくその雰囲気が変わりつつある。

それはグローバル化の波が来ているからだ。

学校も、就職も、すべてがお金中心だった雰囲気から脱却しつつある。
それに拍車をかけたのが「ジョコウィ大統領」だと感じている。
汚職に関してかなり厳しくなっているし、「能力があるものが上に立つ」というのを現実に見せてくれたからだ。

もちろん、学校教育に力を入れていることもあるが、学校の教育だけではなく、塾に通わせる済的余裕がある親も多くなってきている。それは、すこしでも子供の能力を高めてあげたいという親心が働いているし、能力主義に変わりつつあることを敏感に感じとっているからだ。

公文式で有名な「クモン」もインドネシアにかなり定着しているし、他の学習塾業界も参入が相次いでいる。

その根底にあるのは、インターネットの普及によって、様々な選択肢が増え、海外への留学や就職が可能になってきたからだと思う。中華系の富裕層は、シンガポールやアメリカ、イギリスなどの有名大学に進学することが当たり前になっているし、
ビジネス自体もグローバルになってきている。

バンドンにあるインドネシア教育大学の友人も現在日本に留学しているし、日本語学科を専攻する学生が群を抜いて多い。彼らは幼い頃から、「ドラえもん」などのアニメなどを通じて、日本に親しんでいるし、日本にいつかは行きたいと思っている。

そして、通訳や翻訳の仕事は給料が高いことも十分理解しているのです。だから、世界でも難しい言語である日本語を本当に一生懸命に勉強している。

つまり、今まで埋もれていた人、能力がありやる気もある人がどんどん出てくると感じている。

インドネシアでビジネスをする時には、現地のインドネシア人を雇うことになるが、決して学歴や職歴で判断してはいけないということです。

実際私が経験したのは、高卒の作業員の中でも優秀な人はいるということです。

あるとき、エンジニアが足りないので欲しいと上司に相談したところ、「そんな余裕はないから、今いる従業員から選べ」と言われたので、約1,000人に対して、物理と数学のテストを実施した。
問題は私が、中学校の教科書を参考に作成した。

結果は、ダントツで成績がよかった3人がいた。彼女らはすべて高校卒の単純な仕事をしている作業員だったのです。4年制大学卒業した人の成績は平均値だった。

早速、その3人を呼び、面接したところ、中学校や高校の頃は特待生として学費減額や免除を受けていたという話だった。そこで、製図や設計を教えたところ、わずか3ヶ月で公差を含めた部品図面を、CADで書けるようになったのです。

もし、あなたがインドネシアで良い人材を探しているとしたら、学歴、職歴にかかわらず、あなた自身で作った問題をやってもらうことです。それは簿記であれば、インドネシアの簿記学校の教科書から抜き出して、問題を作成する。
マネージメントは、マネージメントの本が多く出ているので、そこから抜き出すなどしてください。

すると、以外と良い人材を獲得することができると思います。
これは能力の差がはっきり出る方法のひとつです。

応募人数は多くなりますが、確実に埋もれている人材は存在します。

根気よく探し続けることで、学歴に頼らず、実力主義で人を採用するという社内の雰囲気も良くなるし、採用した彼らもあなたに「恩」があるのでしっかりと働いてくれるでことでしょう。

優秀な人がいないのではなく、欲しい人材能力を特定し、その能力を見つけ出す方法を試していないだけなのです。


出典:KOMPAS.COMより
Pergi ke Sekolah, Bocah-bocah Ini Seberangi Jurang 20 Meter
dengan Saluran Air.
(http://www.kompas.com)

 

前回記事: (7)インドネシアからの労働者に指導するべき事とは?(その2)

執筆:島田 稔(しまだ・みのる)
大手電機メーカーの技術者としてインドネシア在住9年。その後インドネシアで独立し
現地法人を立ち上げる。2冊商業出版し、現地企業や宗教家などと太いパイプを持つ。
現在はセミナーや執筆、翻訳、進出企業支援を行なう。
お問い合わせはメールでお願いします。
langkah.pasti3@gmail.com

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