中国が人工島を建設するなど領有権を主張する南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島を巡る紛争について、2013年フィリピンがオランダ・ハーグの仲裁裁判所に提訴した。その提訴内容15件と、2016年7月12日に仲裁裁判所が出した判決についてまとめておく。
○フィリピンの仲裁裁判所への15件の訴え
- 中国の海洋権益は、国連海洋法条約が認める範囲を超えてはならない
- 中国の「九段線」内での主権、管轄権、「歴史的権利」の主張は条約に反し、法的効力はない
- (*)スカボロー礁に、排他的経済水域(EEZ)や大陸棚は生じない
- (*)ミスチーフ礁、セカンド・トーマス礁、スービ礁は低潮高地であり、領海、EEZ、大陸棚は生じない
- ミスチーフ礁、セカンド・トーマス礁は、フィリピンのEEZと大陸棚の一部
- (*)ガベン礁、ケナン礁は低潮高地であり、領海、EEZ、大陸棚は生じない
- (*)ジョンソン南礁、クアテロン礁、ファイアリー・クロス礁ではEEZと大陸棚は生じない
- 中国は、フィリピンのEEZや大陸棚での主権行使を違法に妨害
- 中国が、フィリピンのEEZ内の生物資源を中国国民が利用するのを防止していないのは違法
- (*)中国はフィリピンの漁師らのスカボロー礁での伝統的漁業を妨害しており違法
- (*)中国はスカボロー礁とセカンド・トーマス礁での海洋環境保護で条約違反
- 中国がミスチーフ礁を占拠し建設工事を行っているのは、条約違反
- (*)中国によるスカボロー礁近海での公船の危険な運用は、条約違反
- 仲裁裁判開始後、中国はセカンド・トーマス礁でのフィリピンの航行の権利を妨げるなど争いを不法に拡大させた
- 中国は更なる不法な主張と行為をやめるべきだ
〔出典:読売新聞 2016年7月13日〕
上記15件の訴えのうち、仲裁裁判所が2015年10月に審理入りするとしたのは、3、4、6、7、10、11、13の7件。
この15件の訴えをその種類によって分類すると以下のとおりとなる。それぞれについて2016年7月12日の仲裁裁判所の判決を記す。
○条約との関係 (※以下すべてについてフィリピン主張を認めた)
- 1.中国の海洋権益は、国連海洋法条約が認める範囲を超えてはならない
- 11.(*)中国はスカボロー礁とセカンド・トーマス礁での海洋環境保護で条約違反
- 12.中国がミスチーフ礁を占拠し建設工事を行っているのは、条約違反
- 13.(*)中国によるスカボロー礁近海での公船の危険な運用は、条約違反
○「九段線」関連 (※フィリピンの主張を認めた)
- 2.中国の「九段線」内での主権、管轄権、「歴史的権利」の主張は条約に反し、法的効力はない
○人工島によるEEZ・大陸棚の発生について(※個々に判断)
- 3.(*)スカボロー礁に、排他的経済水域(EEZ)や大陸棚は生じない ⇒主張認めた
- 4.(*)ミスチーフ礁、セカンド・トーマス礁、スービ礁は低潮高地であり、領海、EEZ、大陸棚は生じない ⇒主張一部認めず
- 6.(*)ガベン礁、ケナン礁は低潮高地であり、領海、EEZ、大陸棚は生じない ⇒主張認めず
- 7.(*)ジョンソン南礁、クアテロン礁、ファイアリー・クロス礁ではEEZと大陸棚は生じない ⇒主張認めた
○フィリピンの領土主張と中国の妨害 (※以下すべてについてフィリピンの主張を認めた。14はコメント付き)
- 5.ミスチーフ礁、セカンド・トーマス礁は、フィリピンのEEZと大陸棚の一部
- 8.中国は、フィリピンのEEZや大陸棚での主権行使を違法に妨害
- 9.中国が、フィリピンのEEZ内の生物資源を中国国民が利用するのを防止していないのは違法
- 10.(*)中国はフィリピンの漁師らのスカボロー礁での伝統的漁業を妨害しており違法
- 14.仲裁裁判開始後、中国はセカンド・トーマス礁でのフィリピンの航行の権利を妨げるなど争いを不法に拡大させた⇒※「中国は人工島の建設などで争いを拡大させた」
○総論 (※フィリピンの主張を認めた)
- 15.中国は更なる不法な主張と行為をやめるべきだ⇒「双方が条約の義務を果たすべき」