タイの憲法 ~1997年憲法から新憲法へ~

2016年4月1日 〔タイ〕

 2014年5月22日の軍部によるクーデターによりプラユット暫定首相による軍政となったタイでは、民政移管に向けて憲法の改正作業が進められている。1997年に施行された「1997年憲法」は、タイで最も民主的な憲法と言われてきたが、2006年9月のクーデターで停止となりその翌年に2007年憲法が施行されている。そして、2014年5月のクーデターでその2007年憲法も停止となった。

 今回1932年憲法から数えて18番目の憲法の策定作業が進めれている。

 近年の憲法についてその概要を以下に記す。

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1997年憲法 (~2006年9月クーデター)

  1932年憲法から数えて16番目の憲法。制定過程に学者・知識人層などが多く参加したことで、「国民(人民)憲法」と呼ばれる。2006年9月のクーデターで停止された。

  • 上院:定数200人(立候補できるのは政党の党員以外)
  • 首相:会員議員から選出

2007年憲法(~2014年5月クーデター)

 2006年9月のクーデターで1997年憲法が停止され、即座に施行された暫定憲法を経て、2007年8月24日に施行

  • 上院:定数150人。公選77人、任命73人(下院議員の家族や政党の党員以外)
  • 首相:下院議員から選出(連続8年超の在任の禁止)

前・新憲法草案(2015年9月6日に否決)

 2014年5月22日の軍のクーデターにより新憲法の草案作成が始まった。

 クーデター後最初の新憲法草案は、軍事政権が設置した非民選の議会「国家改革議会(定数250)」による採決の結果、反対135、賛成105で否決。

 その結果を受け、「憲法起草委員会」が、憲法案の起草作業を一かららやり直すこととなった。

 この草案には、政治混乱などの非常時に軍が関与する委員会が政府や国会を事実上超越できると定められていた。

新憲法草案 第一次草案(2016年1月29日公表)

 前・新憲法草案の否決を受け、一から作り直した草案の第一次草案が2016年1月29日に公表となった。

  • 上院:定数200人。直接選挙ではなく各種団体や専門家から選ぶ 
  • 下院:定数500人。小選挙区と比例代表を組み合わせた新選挙制度を導入。単独過半数の獲得が困難とされる
  • 首相:国会議員以外の首相就任を認める。選挙前に各政党が候補者3人を公表する規定を設ける
  • 独立機関の権限:前憲法草案にあった委員会案を撤回し、憲法裁判所に国政介入が可能となる強い権限を与える

新憲法草案 最終草案(2016年3月29日公表)

 1月29日公表の第一次草案に対する意見をとりまとめた最終草案。8月7日に国民投票が行わる予定。現時点ではタイ二大政党である「タイ貢献党」(タクシン派)、「民主党」(反タクシン派)ともに今回の草案に反対を表明しているため、8月の国民投票では否決される可能性が高い。

 今回の最終草案では、「軍政からの移行期間」として憲法施行から5年間の暫定措置とは言え、軍事政権による上院の実質的支配を認めるものとなったいる。上院250人の内244人が、軍政が指名する委員からなる委員会が選び、残る6人は、国軍最高司令官、陸軍司令官、海軍司令官、空軍司令官、防衛次官、警察長官に割り振られる。また、首相は選挙で選ばれる下院議員以外からも選出可能となっており、首相選挙は下院議員だけでなく上院議員も参加する案を、新憲法草案と合わせて8月の国民投票に提出する予定。

 タイの歴史上最も民主的と言われている1997年憲法では、上院の定員は200人が公選となっており首相は下院議員から進出されるものとなっていた。

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