〔コラム〕ドゥテルテ大統領の夢見るもの

 就任後半年足らずのフィリピン大統領の言動が世界を騒がせている。

 フィリピンの第16代大統領としてロドリゴ・ドゥテルテ氏が就任したのは今年6月30日。そらから半年の間に、数々の「不適切発言」とも思われる過激な発言が世界を騒がせている。発言によっては直後に発言の本意について説明することもあり、同氏の発言をその言葉通りとって良い物かどうか世界は迷っている。

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 また、外交でもかなり大胆な行動をとっている。アキノ前大統領がそれまで関係の深かった中国を遠ざけ、米国との関係強化に動いたのと対照的に、ドゥテルテ大統領は中国に近づき、米国とは少し距離を置こうとしているような言動を続けている。

 南シナ海の領有権をめぐる仲裁裁判所の中国に対する判決順守を中国に強く迫らないこと。そして、オバマ米大統領に対する不謹慎な発言やまるで米国との関係を絶ってしまいたいかのような発言を繰り返していること。この2点が米国をはじめ世界から注目されている。

■ドゥテルテ大統領の目指すもの

 ドゥテルテ大統領はどこに向かいたいのか。

 暴言ともいえる発言を繰り返している同氏だが、フィリピン国民からの信頼は厚く、支持率は高い。真剣にフィリピンという国の将来の事を考え、そのために必要な行動を起こしてきているという風に国民は見ているのだろう。

 アキノ前大統領の功績はフィリピンの経済成長だった。フィリピンの国民は急激に豊かになって来ている。しかしながら7千を超える島々からなるこの国では、都市部とそれ以外の地域の人々の暮らしの格差は以前大きい。生活インフラや治安もかなりの差がある。

 そんな国の将来を見据えて、「今やるべきことは迷わずやる」という覚悟がドゥテルテ大統領にはあるように思えてくる。

 自身が長年市長を務めたダバオ市を「フィリピンで最も危険な地域」から生まれ変わらせた実績もある。

■ドゥテルテ流の開発独裁

 国を独立させ存続させるためにかなり乱暴なやり方で国を治めたのはシンガポールのリー・クアンユー初代首相だった。国が開発途上の際には必要な「開発独裁」ということばでリー・クアンユー氏のある種の独裁は正当化されている。

 国民が参加する選挙制度はあるものの、議論に時間をかけず政策を執行できる絶対与党を維持するためにいろいろなことを屋てきた。テレビや新聞も政府の都合の悪いニュースが流れることはなかった。国民をまるで子供のように扱い、しつけのために刑罰のある法律をいくつも作った。

 もっとも厳しい刑罰は麻薬事件に科されている。どこの国籍であろうと、麻薬を持ちこんだものは例え少量でも死刑になる。そして実際に執行されている。国土も狭く、人口も少ないシンガポールにとって麻薬の蔓延は国の終焉を意味したのだろう。。

 ドゥテルテ大統領がまず取り組んだのも、フィリピンから麻薬患者や麻薬の売人を撲滅することだった。市長を務めたダバオ市でやったように、かなりの強権で取り締まりを始めた。

 そのやり方は、欧米諸国から「超法規的」だと言われているが、ドゥテルテ氏は「フィリピンの問題は自分たちで解決する」と言わんばかりに他国からの批判を気にしない。そしてやり方はどうあれ、その結果はすでに出てきている。と言われるやり方だが、その成果は着実に出てきている。フィリピンから麻薬患者がいなくなる日はそう遠くないのかもしれない。

■フィリピンが威厳を持つために

 ドゥテルテ大統領の米国を冒涜するような発言の多くは直接米国に向けられたものではなく、フィリピンの国民に向けた演説で多い。同氏の米国嫌いを理由とする推測も出てきているが、必ずしもそれが理由ではないように思う。

 フィリピンという国は良くも悪くも米国の影響を強く受けきた国だ。一時は少し距離を置いたが前大統領がまた近づいた。フィリピンにとって米国は信頼できない相手や頼れない相手ではなく、もしかしたら国民が頼りすぎている相手なのかもしれない。

 フィリピンがひとつの国として威厳をもって世界でその存在を示していくために、外交だけでなく商業や暮らしの面でも米国頼みになっている国民の目を覚まさせたいのではないだろうか。そしてフィリピンの若い世代はそれを望んでいる。

 リー・クアンユー氏がシンガポールという国の存続と成長を心から願い、まるでうるさい父親のように国を治めていったように、ドゥテルテ氏もまたフィリピンという国の将来を思いちょっと横暴な親父の役を買って出ているのではないだろうかと思ってしまう。

■限られた時間

 現在すでに70歳を超えているドゥテルテ氏。そしてフィリピン大統領の任期は6年で再選は禁じられている。ドゥテルテ大統領には限られた時間しかない。その時間の中でフィリピンを世界の一流国にしていくためには、彼流の「開発独裁」が今必要なのかもしれない。

 彼の心の中にあるのは、輝かしいフィリピンという国の将来だと思えてくる。

「中国と米国とどちらが好きか」と記者からたずねられたドゥテルテ氏は「私はフィリピンが好きだ」と答えた。

2016年10月27日

仁藤誠人

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