〔特集〕 南シナ海の領有権をめぐる中国との対立
〔主な出来事〕 ASEAN各国のコト/日本の動き/日系企業の進出/各国の統計情報
〔これからの出来事〕
【 南シナ海の領有権をめぐる中国との対立】
南シナ海の領有権問題を巡って中国とフィリピンやベトナムが論争を繰り広げてきているが、2月15日~16日に米カリフォルニア州サニーランドで開催された米・東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議をきっかけに中国と米国との間の論争へと形を変えてきている。
○米国手動の首脳会議
昨年11月、オバマ米大統領は東南アジア諸国連合(ASEAN)に対して、米国カリフォルニア州での首脳会議開催を提案した。翌12月にはASEANが提案を受け入れ、今回のサニーランドでの米・ASEAN首脳会議が実現した。
会議を主導した米国の思惑としては、南シナ海をめぐる中国の動きに対してASEANの国々との協力関係を取り付けることにあったようだ。
○米国による実力行使
国際法による南シナ海の航行の自由を主張する米国は、2015年10月に南沙諸島、2016年1月に西沙諸島へと2回に渡って米艦船を南シナ海に派遣し、中国が埋め立てた人口島の12カイリ(22キロメートル)以内を航行して「航行の自由」をアピールした。
○南シナ海の中国問題に対するASEAN加盟国の態度
2015年12月にASEAN経済共同体(AEC)が発足し、経済活動でも一体化を進めようとしている東南アジア諸国連合(ASEAN)だが、南シナ海問題をめぐる中国に対する態度には温度差がある。
〔ASEAN各国の南シナ海問題に関する中国への態度〕
中国に対する態度 | 国名 |
領有権を主張し 激しく批判している | フィリピン、ベトナム |
領有権を主張し 批判的立場をとっている | マレーシア、ブルネイ |
中立的立場をとっている | シンガポール、インドネシア |
中国から援助を受けており 中国批判はさけている | タイ、ミャンマー、ラオス、カンボジア |
フィリピンは2013年に、中国が造成中の人口島について、「満潮時に海に沈む領海の起点にならない」とする国際法違反だとオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所に提訴していた。
また、中国の主張する「九段線」による領有権主張を「国連海洋法条約」に違反するとも訴えている。その訴えに対し中国は、同裁判所に管轄権がないと主張し、2015年7月に行われた口頭弁論には欠席している。
2015年10月、常設仲裁裁判所はフィリピンの訴えに関する審理を始めることを決定し11月24日に中国欠席のまま口頭弁論が行われた。
一方ベトナムは、中国が2014年5月に西沙(パラセル)諸島付近で石油掘削作業を始めたことをきっかけに国内で反中デモが起きるなど、中国に対する態度が硬化した。
2014年12月11日にはベトナム外務省報道官が中国が領有権出張の根拠とする「九段線」について、「一方的な主張は断固拒否する。(仲裁)裁判所に自国の見解を伝え、ベトナムの法的権利と利益に正当な配慮を払うよう要請した」と伝えている。
○米国流の解決方法がASEANになじむか
今回米国で開催された米・ASEAN首脳会議で、特定の国名に触れることを避けながらも「航行と航空の自由」を共同文書に盛り込まれた〈※関連記事〉。そして同じ時期に中国による西沙諸島の地対空ミサイル配備が米国により明らかにされ、フィリピンとベトナムはそれぞれ抗議声明を発表している〈※関連記事〉。
多くの民族や宗教が混在して国家を形成しているASEANの国々は、多様性の中での一体感の醸成を時間のかけて慎重に進めてきている。南シナ海の中国との領有権問題についても、歴史的な背景も踏まえながら時間をかけて慎重にすすめているように感じる。
米国が南シナ海問題について積極的に関与し始めており、中国とフィリピン・ベトナムの対立問題から中国と米国の対立へとその構図が移り変わってきている。米国流の解決方法がASEANでなじむかどうか、注目される。
〔関連記事〕
○ASEAN各国のコト
〔ASEAN〕
- 米オバマ大統領とASEAN首脳との会合が2月15日から2日間の日程で米カリフォルニア州サニーランドで開催。2月18日は共同文書を発表 〈※関連記事〉
〔インドネシア〕
- リッポー・グループが昨年9月にオープンしたネット通販サイト「マタハリ・モール」強化のために外資との提携を模索 〈※関連記事〉
- ガルーダ・インドネシア航空の2015年12月期通期は前年の赤字から一転黒字に
- 携帯通信最大手「テレコムセル」が二輪車タクシー配車アプリ「ゴジェック」を運営する「ゴジェック・インドネシア」と提携。アプリからプリペイド方式通信料の追加入金が可能に
〔シンガポール〕
- 物流大手の「グローバル・ロジスティックス・プロパティーズ(GLP)」がカナダ年金計画投資委員会(CPPIB)と折半出資の合弁会社を設立し、日本で物流施設の建設に乗り出す。2月17日発表
〔タイ〕
- 資産額で4位の「カシコン銀行」が8月までにカンボジアの首都プノンペンに同行初の支店を開設。ラオスの首都ビエンチャンにも9月までに支店を開設
〔フィリピン〕
- フィリピン中央銀行が、銀行免許に関する規制を段階的に解除していくと発表。2018年までに免許交付に関する規制を全て撤廃する。銀行免許は17年間新規交付を停止していた
- 首都圏の高架鉄道建設を受注している「ライト・レール・マニラ」が高架鉄道延伸の工費の一部240億ペソの融資確保決定
- 発電大手「アボイティス・パワー」は2016年に520億ペソの設備投資を実施。投資額は2015年とほぼ同じ。2020年までに発電能力を400万キロワットに増強するための発電所建設などを行う。2015年末の発電能力は約240万キロワット
- 中国の南シナ海西沙諸島でのミサイル配備に対して2月19日抗議声明を発表 〈※関連記事〉
〔マレーシア〕
- 政府が2016年修正予算を発表。想定原油価格などの経済状況悪化により最大約90億リンギの歳出削減となる修正予算案を発表
- 政府系通信大手「アシアタ・グループ」が2015年12月期決算を発表。通貨リンギが周辺国に比較して下落幅が大きかったため周辺国関連会社の業績がリンギ換算で膨らんだため
- 英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルは、マレーシアの製油所運営子会社の株式51%を中国の山東恒源石化集団の子会社に売却する
- 国民車メーカー「プロトン」が、不良な冷却ホース修理のため9万5千台近くをリコール。対象は多目的車「イグゾラ」、セダン「プレヴェ」と「スプリマ」の3車種 〈※参考:The Malaysia Insider〉
〔ベトナム〕
- 中国の南シナ海西沙諸島でのミサイル配備に対して2月19日抗議声明を発表 〈※関連記事〉
〔ミャンマー〕
- オーストラリアの石油・ガス開発大手「ウッドサイド・ペトロリアム」が西部ラカイン州の海上鉱区「AD-7」で天然ガス資源の埋蔵を確認した。同社は1月に「A-6」鉱区でも埋蔵を確認しておりミャンマーの6鉱区で権益を保有することになる。
- 中国の複合企業「広東省広晟資産経営(GRAM)」傘下の豪州・資源開発大手「パンオースト」が北部ザガイン地方の3鉱区で鉱物資源の採掘権を獲得した。同社が80%、地元資源大手「ミャンマー・エナジー・リソーシズ・グループ・インターナショナル(MERG)」が20%の権益。2017年にも探鉱に着手
- ヤンゴン中央駅周辺の再開発プロジェクトの入札手続きで、国内外の15陣営が第1次審査を通過。再開発はBOT(建設・運営・譲渡)方式で実施される。地元の不動産開発大手「ファースト・ミャンマー・インベストメント(FMI)」ほか、中国、韓国など企業も含まれている
- 日産が初の自動車生産に乗り出す。マレーシアのタンチョンモーターグループと共同でまずは小型セダン「サニー」の生産を年内にも始める 〈※関連記事〉
〔ラオス〕
- タイの格安航空会社(LCC)最大手「タイ・エアアジア」が、3月24日からラオスの古都ルアンパンとタイ・バンコクのドンムアン空港を結ぶ便を就航。同社によるラオスへの就航は初めて。2917年2月5日までは、片道990バーツで毎日運航
○日本の動き
- 中国が南シナ西沙諸島に地対空ミサイルを配備したことを受け、日本政府は自衛隊をベトナムやフィリピンと連携させ南シナ海海域への関与を拡大。2月16日から18日には、アフリカ・ソマリア沖に派遣されていたP3C哨戒機2機をベトナムのダナンに寄港させ、ベトナム海軍と初めての共同訓練を行った
○日系企業の進出
- 東レは2月15日、タイの「Carbon Magic (Thailand) Co., Ltd.」の新工場の開所式を行ったことを発表 〈※東レのニュースリリース〉
- 日本電気硝子はマレーシアの工場に20億円を投じ生産設備を増強する。7月稼働予定。日本電気硝子の医療用管ガラス売上高は60億円で、世界で約15%のシェアを持つ
- 港湾運送大手の上組がマレーシアに商社機能を備えた全額出資の新会社を設立した。昨年12月より営業開始
- 日本通運は今月中にもカンボジアのアパレル製品の日本への輸出定期便サービスを開始する。これまでのベトナムまで陸送しカンボジアで船積みするルートに来れば日程はほぼ半分になる
- 日本旅行がインドネシアにある東レ系旅行会社「ジャバト・インターナショナル」の株式75%を取得し買収。インドネシアからの訪日客の獲得を狙う
○各国の統計情報
- タイの国家経済社会開発委員会(NESDB)は2月15日、2016年の国内総生産(GDP)の予想伸び率を当初の「3~4%」から「2.8~3.8%」に下方修正した。2015年は2.8%だった
- マレーシア中央銀行が2月18日、2015年10月~12月期の実質国内総生産(GDP)を発表。前年同期比4.5%増。7~9月期は4.7増だった
- インドネシア中央銀行は2月18日まで開催した月例理事会で政策金利を0.25%引き下げ7.0%とすることを決めた。利下げは2ヶ月連続。市中銀行の預金準備率も3月16日付で7.5%から6.5%に引き下げる
- フィリピン中央銀行は2月19日、2015年の海外に住むフィリピン人からの外貨送金額(銀行経由ベース)を発表。前年比4.6%増の257億6700万ドルで過去最高だった。ただし、伸び率は2014年ぶりの低さ
- 2月21日
・フィリピン大統領選挙公式討論会 - 2月22日
・タイ、カンボジアの祝日「 万仏節」 - 2月23日
・ブルネイの祝日「独立記念日」 - 2月24日
・シンガポール、2015年10~12月のGDP(確定値)発表 - 2月25日
・フィリピンの祝日「エドゥサ革命の日」 - 3月21日
・「バンコク国際モーターショー」(タイ)(~4/3)
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