【連載】建国50年のシンガポールにて2015(7)

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第7話
シンガポールの教育と徴兵制 (有澤和歌子)

 写真は公立小学6年生の時間割、ホストファミリーの4番目の子どもで12歳の女の子である。7:30から始まり終了は13:30。午後にも授業がある時がたまにあり、そんな時はランチボックスを持っていくそうだ。arisawa singapore 7-01

 

 

 

 

 

 

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 シンガポールの初等教育には定評がある。詰め込みすぎだという人もいるようだが、私はそうは思わない。もしも私が息子の生まれる頃に現在の知識や考え方をもっていたならば、たぶん海外での息子の初等教育を模索しただろう。

 小学6年生の彼女は朝5時に1人で起きて、1人でご飯を食べて、自分で電車とバスを乗り継いで学校に行く。学校まで1時間ほどかかるので6時過ぎには自宅を出る。「家の近くに小学校はないの?」という私の問いに父親が答えてくれた。「この子の行っている学校は公立でも名門の小学校で自宅から遠いんだ。シンガポールでは親が卒業した小学校に、その子どもが優先的に行ける仕組みがあるので、うちの娘は3人とも母親の卒業した女子校に行ったんだよ」と、なるほど。ちなみに私のホストマザーはシンガポールの国立大学出身なので、小学校の時も才女であったに違いない。シンガポールの公立小学校では第一優先がその小学校出身の親の子、第二優先が通学地域(学区)の子、最後に学区以外の子という順序で入学が許可されるそうだ。どうしてもその小学校に入れたくて、親がその小学校を卒業していなかったならば、引っ越ししか手はない。それでも確実に入れるとは限らない。どうしてそんなに公立小学校選びに親が血眼になるかというと、シンガポールでは小学6年終了後に全国学力テスト(PSLE)があり、その結果で振り分けられて、次に行く中学が決まるのだ。そんなわけで、よい小学校に入って、ちゃんとした成績を残すことを重要と考える親が多いのだ。

 日本の小学校と異なる授業内容は、強いて言えばMT(Mother Tongue:母国語)だ。この授業の際には、民族別のクラスに別れ、マンダリン・マレー語・タミル語を学ぶ。(フィリピンやインドネシア、他外国からの子どもが何を学ぶかは聞き忘れた。)

 さて、この振り分けテストは中学卒業時、高校卒業時にも行われ、年齢が上がるにしたがって、職業選択にも大きく影響を及ぼしていく。日本のように「○○高校・○○大学を目指す」というものではなく、レベルの上位を目指すものになっている。シンガポールには国立大学が4校しかないのだが、その大学の学生数の3割は留学生枠なため、自国の大学に行きたい人はしっかり勉強しなくてはならない。(ちなみに留学生の授業料はとても高いとのこと。観光客からの外貨獲得のうまいシンガポールである。)

arisawa singapore 7-02 次に、徴兵制。毎朝駅で見る光景に迷彩服の団体がある。シンガポールには軍隊があり徴兵制もある。たとえばタイには徴兵制はあるものの、教職についていたり、国際公務員だったりなど参加困難な理由が認められれば徴兵は免れる。シンガポールもそうだろうと思っていたのだが、絶対参加と聞いて驚いた。17歳から24歳の内の2年が徴兵なのだが、数年前までは2.5年だったそうだ。もしも海外の大学に進学している場合などは、該当年齢中の延期は可能だが、デポジットとして最低73,000S$を国に預ける必要がある(現時点の為替レートで700万円程度。保護者の収入で金額が変わるので上限に限りがない)。もしも留年して予定通り帰国できない場合は海外の大学を休学・退学するしかない。万が一逃げてしまえば犯罪者となり、二度とシンガポールに入国することはかなわない。外資系金融機関に働くシンガポーリアンA氏の息子は18歳になった時、徴兵に悩んだ。シンガポールに住んでいたのは1才までの1年間だけ。そのあとはずっと父親の転勤で外国を転々としていたため、息子自身がシンガポーリアンの自覚があまりない。なんとか徴兵制を免除してもらえないかと父親が関係省庁と交渉をしたが、二度とシンガポールに入国しないつもりならデポジットの没収で可能と回答されたそうだ。息子は国際ビジネスマンになりたいために、「シンガポールだけは入国できないんです」と出張を断るわけにもいかず、結局徴兵制に応じたそうだ。

 どこの家庭でも男子は「徴兵は嫌だと」言っているらしいが、親は徴兵中にビシビシ鍛え直してほしいと思っているそうだ。言われてみればそうだなと息子の顔を思い浮かべた。

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(続く)

著:有澤和歌子(ありさわ・わかこ)
wombプロジェクト代表、idiscover設立準備中
 旅行・海外出張で50か国を訪問。近年はアジア、特にASEAN・中国を中心に活動。富士通ではマーケティング、ITベンチャーのホットリンクでは広報責任者として従事した。自身の晩婚・不妊治療・高齢出産の経験より「卵子の老化」を若者に伝えることがライフワーク。富山県出身、青山学院大学経営学部卒。

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