連載「最新インドネシアビジネスニュース」(19)

デヴィー夫人が語るプレマンの実態と恐怖(下) パンチャシラ青年団

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3. パンチャシラ青年団

この「赤狩り」の実行犯はプレマンなのだが、もう一つの政治的民間団体が加わっている。それが、パンチャシラ青年団だ。現在のトップは、ジャプト・ソエジョロエマルノ氏(Japto Soerjosoemarno)だ。現在では、プレマンもパンチャシラ青年団も交流を密にしており、会員は300万人とされている巨大組織だ。

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パンチャシラというのは、建国5原則のことで、
(1) 唯一神への信仰
(2) 公正で文化的な人道主義
(3) インドネシアの統一
(4) 合議制と代議制における英知による民主主義
(5) インドネシア国民の社会的公平

この民間団体は政府から承認されているので、堂々と活動をすることができるし、政府に変わって政策を推し進める役割を果たしている。政府の政策に反対する者の排除や、地域紛争を裏側から制圧する力を持っている。

具体的には、道路建設などの土地買収の立ち退きを「パワー」でおこなったり、地方の有力者とつながって独立運動を阻止したりといったことだ。政府や軍が直接関わると、国際的にも批判を浴びてしまうが、民間団体の自主的な活動とすれば、政治家も言い訳できるし、行政を執行することも容易になるのだ。


4. ユスフ・カラ副大統領の隠れた側近

この「アウト・オブ・キリング」の中で、現副大統領であるユスフ・カラ氏が、パンチャシラ青年団の集会でコメントをしている。その内容が以下だ。

「世間はパンチャシラ青年団をプレマンだと責める。
プレマンは制度にとらわれない。
役人とは違う。
自由人だ。

この国には自由人が必要だ。誰もが役人だったら仕事が片付かなくなる。
仕事を片付けるプレマン、つまりこの国には自由な男たちが必要だ。

力を使おう!
ケンカのためではなく、
時にはケンカが必要な時もありますが。」

つまり、ユスフ・カラ副大統領も、政治を推し進めるためには、プレマンが必要だし、利用している、ということだ。
誤解を恐れずにいうと、政治と暴力が一体になっているということだ。

5. 労働組合とプレマン

さらに問題なのは、巨大組織であるパンチャシラ青年団と労働組合との関係だ。ジャカルタ郊外の工業団地で最低賃金の引き上げを求める金属労連とパンチャシラ青年団との衝突するとう事件が2013年に発生している。

パンチャシラ青年団の職業として多いのが、廃品回収業者だ。だから、企業が生産活動を停止してしまうと、廃品回収ができなくなり「飯が食えなくなる」ので、デモを起こす労働組合と衝突することになったのだ。企業側も、パンチャシラ青年団を利用しているといううわさもある。

しかし、一方では、労働組合とパンチャシラ青年団と手を組んでいるということも言われている。実体は不明だ。

一つだけ言えるのは「カネ」がらみということだ。労働組合幹部とパンチャシラ青年団幹部が手を組んだとしたら、デモ側と制圧側の「自作自演」が可能になるからだ。目的は「カネ」を企業から吸い取るために活動する。その点では一致しているからだ。

6. 進出企業が注意すべきこと

進出企業のリスクは、法律や政府や警察だけではないということだ。労働組合、パンチャシラ青年団、あるいは、イスラム擁護戦線(FPI)もある。いずれもプレマンが入り込んでいるからだ。

インドネシアにおいてビジネスをするには、これらのリスクを知り、不測の事態に備えておくことだ。先進国である日本のように守ってくれることはほとんどないからだ。政府、警察、裁判所もそうだ。

以下注意点を上げておく。

(1) 社内では労働問題にならないように、従業員との会話を重ねておく

全国組織の労働団体は、「労働者の駆け込み寺」のような存在になっている。給料が支払われない、不当な扱いを受けた、解雇された労働者は、まず全国組織の労働組合に訴えるのだ。だから、社内の従業員との会話が欠かせない。それも心のそこから信頼を得られるようにしていかなければならないのだ。

(2) 廃品回収業者は特に注意する

廃品回収業者にはプレマンが多く存在する。そして、従業員とのつながりから会社に入り込んでいる。廃品についてもしっかりと管理していく必要があるし、従業員教育も同時に行っていく。

(3) 法規はきちんと調べ、優秀な弁護士を雇っておく

インドネシアでは、法規の改正と施行がほぼ同時に行われる。毎月のように変わるので、からなず確認しておくことだ。そして、優秀が弁護士と十分に対応を練っていく必要がある。

(4) 州政府、地元警察、労働組合には頻繁に訪問し顔を覚えてもらう

これらの関係をできるだけ多く持っておくことだ。できれば日本のお土産を持参すると良い。顔を覚えてもらえれば、多少の問題が発生しても、なんとか混乱を抑えてくれるからだ。

(5) いつでも脱出できるように準備しておく

どうしても_大きな時代の流れの中で、危険が迫る時がある。その自体は突然発生する。だから、いつでもインドネシア国外に脱出できるようにしておくことだ。具体的には、パスポート、現金(USドル)、シンガポールやマレーシアなどの近郊国までのエアチケットなどを常に所持しておくことだ。

(6) ある程度の「カネ」は用意しておく

プレマンも人間だ。政治的理念や信念だけでは生きていけない。やはり「カネ」がものをいう。「収賄は絶対にしない」のではなく、「収賄は基本的にはしない」という考えをもつことだ。「郷にいれば、郷に従う」ということだ。

[ 郷にいれば、郷に従う:Masuk kandang kambing mengembik, Masuk kandang berbau menguak: ヤギ小屋に入ったらメーと鳴き、水牛小屋にはいったらモーと鳴く]

まとめ

インドネシア進出は簡単ではないが、アジアで中国に次ぐ巨大なマーケットでもある。表面的な情報だけに惑わされずに、「闇の世界」も存在していることを認識することが大切だ。

そして、理論理屈では解決しないことがたくさんあることも理解しておくことだ。そして、一番大切なのは、「命を落とさないこと」だ。そのためには、脱出できる準備を常にしておくことが、最大のリスク回避策となるのだ。(了)

執筆:島田 稔(しまだ・みのる)
大手電機メーカーの技術者としてインドネシア在住9年。その後インドネシアで独立し
現地法人を立ち上げる。2冊商業出版し、現地企業や宗教家などと太いパイプを持つ。
現在はセミナーや執筆、翻訳、進出企業支援を行なう。
ビジネスインドネシア(http://bizidnesia.com/)にて情報を発信している。

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langkah.pasti3@gmail.com

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